傑作 熊本市

先日、読了した柚月裕子さんの最新作『逃亡者は北へ向かう』は、東日本大震災という未曾有の惨事を背景に、人間の本性と運命の皮肉を鋭く描き出した傑作です。

殺人を犯し逃亡する主人公が、避難の混乱の中で家族とはぐれた子どもと出会い、互いに寄り添いながら北を目指す道程は、緊張感と温もりが交錯します。

一方で、津波で娘を失いながらも彼を追う刑事の姿は、職務と私情の狭間で揺れる人間の複雑さを象徴しています。

震災という極限状況がもたらす人間関係の濃密さ、そして罪と赦しの境界線を、柚月さんならではの緻密な筆致で描き、物語の深淵へと引き込まれます。

クライマックス…余韻は重くも深く、読み終えた後もしばらく心が震える秀作です。